教室の中には、私と澪だけが残った。


澪はいったん廊下に出て、他に先生や生徒がいないか確認したあと教室のドアをしっかり閉めて私の元へ来た。


さっきまで真司が座っていた席に腰かけると、彼女は私の鼻を容赦なくつついた。


「いい?今から聞く質問に答えて?」


「いたたっ……」


ツンとした痛みが鼻を襲う。


涙目になった私を見て澪は笑いそうになっていたけれど、気を取り直して厳しい表情を作ると


「萩が好きな人の名前は?」


と尋ねてきた。


彼女は何を言っているのだろうか?
すでに知っているはずなのに。


「芦屋先生」


私が即答したので、澪はちょっと意外そうに目を細める。


「付き合ってる人はいる?」


「え?いないよ。いるわけないじゃん」


私が怪訝そうな顔をしたからか、澪は今度は顔をぐいっとのぞき込んできた。