先生の言葉が胸に突き刺さる。


「楽しくて笑ってるわけじゃないよね」


その通りだった。


怪我のことでみんなに余計な心配をかけたくなかったし、新人戦に出られないことで落ち込んでいる自分を知られたくなかった。


芦屋先生はただただ穏やかで、生徒に優しくしてくれるだけの人じゃなかった。
意外とちゃんと見ているんだということがよく分かった。


隠した左手が、またズキンと痛んだ。


「どうしたらいいのか分からないんです」


私はつぶやくように、芦屋先生に少しずつ自分の気持ちを話した。


「後輩が自分を責めたりしないようにしなきゃって、最初はそればかり考えて……そのためには笑わなきゃって。でも、そのうちこの怪我で週末の試合には出られないんだって分かって……。笑えばいいのか、泣けばいいのか分かんなくなっちゃった」


本当に本当に、私はバカだ。
こんなバカな話をしたって先生は困るよね。


それでも私は話し続けた。


おもむろに隠していた左手を出す。


腫れていた甲と中指。
さっきよりももっと腫れて、もっと痛かった。


「もう弓道できないかも、とかそういうことまで考えちゃって、でも言ったら現実に起こりそうで」


毎日毎日どんな時も休まずに練習に出ていた弓道部の部活。
高校から始めた弓道は、私にとって無くてはならないものだった。


「泣けばいいと思うよ」


と芦屋先生は運転しながら、いつもよりも、もっともっと優しく微笑んでくれた。


「ここには他に誰もいないから、泣けばいいと思う」


先生の言葉はあっという間に私の心の奥に染み込んできて、そして自分でも驚くくらいに涙が溢れた。