「失礼します」


私は言われるがまま助手席に乗り込んだ。


芦屋先生の車の中は、なんとなく絵の具の匂いがするような気がした。
後部座席にたくさんの画材が載っていたから、そこからするのだろうか。


エンジンをかけて、先生は地図を取り出して私に見せてきた。


「家はどのへん?」


「あ、あの、先生?」


一応、確認しておきたくて私は先生を見つめる。


先生も私を見ていた。


思っていた以上に近い距離だったので、私の胸の鼓動はいつも以上に加速した。


「本当に家まで送ってくれるんですか?先生の家から遠くない?」


「運転、好きだから」


先生は答えになっていない答えを返してきた。
そして、持っていた地図を私によく見えるように差し出してきた。


「家、どのへんか教えて」


「……ありがとうございます」


私は素直にお礼を言って、地図を見せてもらって家の場所を教えた。


すぐに芦屋先生は車を発進させる。


車を運転する先生の姿は、なんだか新鮮だった。