ゆっくりと立ち上がり、彼に気付かれない様に扉へと向かう。

たった数歩の距離が遥か遠くに感じ、バクバクと心臓が壊れるほど激しく高鳴る。

……もし今、彼が目を覚ませば……私はきっと殺される。

不快な汗が着物と鍵を握り締めたままの手のひらを濡らした。

気配を殺し何とか扉の前まで歩くと、震える手で鍵穴に鍵を差し込む。

……お願い。

何に祈ったのかは自分でも分らなかった。

少し呼吸を整えた後、思い切って鍵を回した。

……カチッ。

小さな金属音を立てて、錠の外れる音が聞こえる。

そのまま後ろは振り返らずに待ってみるが、後ろから彼が斬りかかって来る事はなかった。

恐る恐る振り向くと、彼はまだ静かに眠っていた。

彼の寝顔をほんの少し見つめると、ギュッと拳を握り締める。

……さようなら……総助様。

震える手で扉を押し開き、そのまま外の世界へと向かって走り出した。