彼の腕に抱かれながら、そっと子守唄を唄い続ける。
……彼は私に子守唄を唄わせる。
毎晩の様に彼が寝付くまで唄を唄うのが、この小さな世界の中で生きる私に課せられた唯一の使命だ。
格子の掛かった窓から朧月を見上げる。
月には薄い雲が掛かり、小さな灯りだけのこの部屋はかなり薄暗い。
辺りはシンと静まり返り、その静寂は仄かな憂いと退廃的な愛を私に伝えた。
彼に視線を向け……そっと子守唄を止める。
彼は私の横で静かに寝息を立てていた。
怖い夢でも見ているのか……その寝顔は時折歪み、小さく何かを呟く。
「……朧……行く……な……」
まるで小さな子供が母親に縋るかのような彼の小さな呟きに、傷口だけではなく、胸がズキリと抉られる様に痛んだ。