京君は視線を感じたらしく、私を見るなり、ニッコリと微笑む。
その笑顔は、太陽ようにキラキラと輝いて見える。
「…実は、柚麻ちゃんに伝えなくちゃいけないことがあるんだ」
急に真剣な眼差しで見つめる京君に、私は嫌な予感がした。
ーまさかー
「僕、外国へ行くんだ…」
京君の唇が震えていたように見えた。
「外国…」
胸が、ギュンと締め付けられるような気持ちでいっぱいだった。
「うん、ニューヨーク。」
「…………」
私は、俯いたまま泣いていた。
ー行かないで、ー
喉まで出掛かった、言葉をグッ…と飲み込む。
京君に迷惑かけたくない…。
「行きたくないよ…」
そう言って震えながら、私を抱き締めてくれた。
これが最後なんだと思うと、涙腺が緩んで涙が止まらなくなった私は、京君を力強くギュッと抱きしめて返した。
京君の匂い…温もり…吐息…心臓の音。
もう全てが、愛おしくてたまらない。
「京君、京君………」
何度も何度も、名前を呟く。
止めることが出来ないのなら、今この場所で、愛する人の名前を呼ぶ。
ーお願い、それだけは許してー
ずっと抱きしめていたい…。
「京君…大好きだよ」
「僕も、柚麻ちゃんが大好き」
そして又、強くお互いを抱き締め合う。
「…約束して…再会する時は、この場所の桜の木の下で会おうって…」
「うん、約束するよ…」
京君が旅立つ日…。
私は、京君の家の前に居た。
「柚麻ちゃん、来てくれてありがとう」
「いえいえ…」
叔父さんと、叔母さんが笑顔で答える。
チラリと京君を見ると、不機嫌そうな顔をしていた。
「京君…」
私は、京君の手を握ると「相変わらず、柚麻ちゃんは、手が冷たいな…」と、悲しそうに笑っていた。
ーそんな顔しないでよ、私の気持ちが揺れるー
キュッ…と抱き締めると、京君は「おいっ!?、父さんと母さんの前で、恥ずかしいだろ」…照れて真っ赤になった顔が印象的だった。
「また、会える日まで…」
「おう…元気でな。電話するし、手紙書くよ」
そう言って、京君は車に乗り込むと窓から顔を出して叫んだ。
「愛してるっっ!!」
ー愛してるー
京君の口から、初めて聞いた言葉…。
いつもは、大好きしか言わなかったのにね。
「私も、京君…愛してるからっっ!!」
見えなくなるまで、お互いに手を降り続けた……。
京君の姿が見えなくなると私は、その場所で泣きじゃくった……。
ー京君、
「柚麻ー!!京君から手紙来てるわよー?」
「はぁ〜い」
母から手紙受け取ると、ソファに座り込むと早速、手紙を開けて便箋に目を通した。
【拝啓、柚麻様】
「ぷっ…何よ、改まって」
手紙に向かって独り言を呟く。
『柚麻、元気か?もう3年も経つんだな…。俺は相変わらずだ、風邪も引いてないんだぜ?、すげーだろ!?…なんて、それは置いといて…ごめんな、寂しいだろうけど…これは俺も一緒だからな、お互い頑張って行こうな…。いつか、お前に会いに日本に戻れることを、楽しみに待ってる…」
短い文章の中には、
凄く気持ちがこもっていて、私は思わず涙した。
「凄いわよね、貴方達…3年も経ってもお互いの気持ちを貫き通して来てさ」
「当たり前じゃない…私達は、こんなので簡単に壊れたり何かしないわよ」
私達は電話や手紙で、お互いの気持ちを確かめあってきた。
そりゃあ、会えないから寂しいけれど。
いつか、京君と又会えるって分かっているから、私達は頑張れるの。
ー京君…ー
「京、柚麻ちゃんから手紙来てるわよ?」
母が部屋に入ってくるなり、俺に伝えてくれた。
俺は慌て過ぎて、椅子から転げ落ちた。
「いってぇ…」
「大丈夫?…もう、手紙は逃げないんだから、慌てなくても良いのに」
手紙を机の上にソッと置くと、母は部屋から出て行った。
「柚麻…」
多分、この時の俺は凄くニヤニヤしていて、さぞかし気持ち悪いことだろう。
【京君へ】
『手紙ありがとう。京君が元気だと知って、私はホッとしました。あ…勿論、私も元気だから安心してね★…京君、私はいつまでも、京君の帰りを待っています。……P・S・京君、京君の為に写真を送ります。感想聞かせてね♪』
俺は、封筒の中身を調べると1枚の写真が入っていた。
2人の女の子達に囲まれた、真ん中に居るのは……えぇ!?柚麻…?
俺は、目を見開くくらい驚いた…。
なぜ、驚いたかって?
柚麻が凄く、可愛くなっていたからだ。
写真の中で微笑んでいる柚麻の顔は、少しだけ大人っぽくなっていて、更に可愛さも増していた。
「柚麻…こんなに可愛くなったんだな」
写真に触れながら、俺は涙した。
ー柚麻…
俺は、涙を拭うと受話器へと向かって走っていった。
【プルルル…プルルル】
凄く長く感じる、この時間。
【プルルル…プルルル】
「はい、もしもし」
《あ…俺、京だけど》
懐かしい…京君の声。
「京君、電話では久しぶりだね」
《うん…国際電話だから、高くてな》
確かに、国際電話だと高くつくので、余り長電話は出来ないけれど、声が聞けただけで、今の私は満足だった。
「そうだよね…」
《…手紙届いたよ》
「良かった…写真見た?」
《あぁ、見たよ…柚麻、可愛くなったな》
「やだ…恥ずかしいな」
《本当だよ…》
「ありがとう。」
《俺も、写真送ったからさ…楽しみにしておけよな?》
「きっと、京君…格好良くなっているんだろうな…」
《そんなことねぇよ…じゃあ、又電話するから……》
「うん…」
【プッ…ツーツーツーツー…】
さっきまで、楽しかった時間が
急に切なくなる…。
遠距離は辛い…けれど、その分…会えた喜びが大きいから………。
ー京君、大好きだよー