ペンギンは僕に言った。
「さぁ、あなたの家へ行きましょう」
僕は事態が飲み込めずにいた。たまの休みに水族館へ行こうとしたら、その道すがらペンギンに出会った。僕は水族館の入館料を払ってはいないし、まして話すペンギンだ。こんな出来事に触れることなど、当然ながら滅多にはないだろう。いや、あっては困るのだ。ペンギンが人間に挨拶をするなんて、人間が描いた夢の話だ。こう簡単に実現してしまっては、味気無いし努力もない。少なくとも僕は何の努力もしていない。
日差しは相変わらず強かった。よく考えると、水族館で見るペンギンは氷に囲まれたブースで暮らしている。何か特別な機械から人工の雪のようなものが絶え間無く降り注いでいる。こんな日中の、しかも強い日差しの中にいてもいいのか?
ペンギンをよく見てみたが、さして弱っている様子はない。
「どうかしましたか?」
僕は好奇心から、ペンギンを家へと連れて帰ろうと思い始めた。
「ひとつ聞きたいことがある」
「はい、何でしょう?」
「君はオスか? メスか?」
ペンギンはしばらく考え込んだ。僕は黒い皮膚をじっと見てた。
「性別によって、何かが変わるのでしょうか?」
「扱いが変わる」
「そうですか……私はメスです」
僕は彼女を家へとエスコートすることにした。