狭い店内に、僕ら以外の客はいっこうに入ってこない。おじいさんは奥で、何をしているんだろ? コーラはもう、炭酸も抜けてしまった。真鈴は珈琲を見ようともしなかった。
「なんで? なんで僕に?」
「そんなの……」真鈴はどこか遠くを見ながら言った。「私にも判らない」
「話は弾んでおるかね? こりゃサービスじゃよ」
おじいさんが再び姿を現した。白い小皿にドーナツを載せたものを両手に持っていた。それを僕らの前に置く。
「お嬢さん、さっきは悪かったのう。揚げたてじゃよ、冷めないうちに食べなさい」
目の前のドーナツは、見るからにおいしそうだった。
「ありがとう」
僕がお礼を言うと、おじいさんはまた黙って頷きながら、奥へと戻っていった。
真鈴はまた、不服そうな顔をしていた。