恋人? 僕と、真鈴が? 僕に恋人なんていただろうか?
細くなった糸をなんとか手繰り寄せてみようとしても、その奥へは突き進めない。糸は完全に、どこかで切れている。
「思い出せなくてもいいの。これから少しずつ、思い出していけばいいから」
その言葉に、真鈴の優しい目に僕は下唇を噛み締めて頷いた。本当だとしたら僕はこの子を、とてつもなく傷付けているのかもしれないんだな。
「ごめん、ありがとう」
僕には他にも、失われた記憶があるのかもしれない。だけど今珈琲の匂いが漂う中で、もう考えることはやめにした。今は、とりあえず……。
「じゃあ、話し始めるわね。祐希くんが追われている理由を」
僕はまた、ゆっくりと頷いた。