目の前に、珈琲とコーラが置かれた。おじいさんはゆっくりと時間をかけて、また奥へと下がっていった。おじいさんの姿が見えなくなるまで、僕らは黙りこくっていた。
「あなたは」
カップを手にとり、一口飲んでから彼女は続けた。
「祐希くんは、追われているわ」
僕もコーラにストローをさし、一口飲む。炭酸が喉を通り抜ける。ごくり。
「その前に、君は誰なんだろう? ごめん……前に会ったことはあるんだろうけど、その……思い出せないんだ」
僕は彼女の顔を覗き見る。彼女の目は珈琲の入った白いカップへと真っ直ぐ向けられていた。
「そうよね。お父さんのこととか……いろいろあったんだもんね。思い出せなくて当然よ」
顔を上げ、僕に微笑む。だけどその微笑みの奥に、何か恐ろしさが見えたのは気のせいだろうか。