「あれ? どうしたの? 可愛い子でもいた? 顔が赤くなってる」
「いや、何も」
貴田先生の言葉に僕は首を振った。その時、チャイムが響いた。時計を見ると、3時半だった。
「あ、そか。時間のこと、すっかり忘れてた。谷口くんどうする? 教室戻る? 念のため荷物も預かっといたし、このまま帰ってもいいよ。あとはホームルームだけだし」
そう言って貴田先生は黒いショルダーバッグを持ってきて、僕に手渡した。
「あ、ありがとう」
僕はとにかく、バッグの中身を見てみたかった。今の僕を知るヒントが、少なからず隠されているはずだ。
「じゃあ、帰ります」
僕は立ち上がった。貴田先生と二人だけの空間にいることも、正直きつかった。
「うん、判った。先生にはちゃんと言っとくから。後は任せて。お大事にね」
保健室の扉を開く前に、僕は振り返って尋ねた。
「あの、僕はなんでここに運ばれたんでしたっけ?」
貴田先生は笑いながら言った。
「理科の授業中に人体の映像を見て貧血になったんでしょ?」