「つまり、こういうことだろう? 僕たちは、お互いの過去のことはおろか、自分の過去さえも知らない。そんな二人が出会い、結婚した。本当に相手の全てを愛せているのか?」
話しながら、僕はこの事態の核心を探していたがやはり見付からない。
「はい、少しだけ当たっていますが違います。私が言いたいのは、あなたたちの失われた過去の記憶の中に眠っている大切なものがあるのではないか、ということです。あなたたちは自分の記憶を最初のストックにして、この仕事を始めていく。最初のうちは、そのストックは手元にあるからどんな記憶があったかの確認ぐらいは出来る。だけど依頼が来るたびに、あなたたちの記憶はひとつずつ、消えていく」
ペンギンは目線を手元のジョッキに向けた。なんだか、ひどく落ち込んでいるように見えた。
「そして、今はもうなにもかも無い」