「記憶です」
ペンギンが言った。真っ直ぐ、僕を見て。私に知らないことはない、と宣戦布告されたような気分だった。
「その仕事を始める日までの記憶を、一切捨てなければいけなかった」
もっとも僕は、もうこのペンギンにはお手上げだった。なにもかもを知っているのだ。あとはただ、目的が知りたかった。その頃にはもう、ペンギンが話すということも不思議には思わなくなっていた。
次に口を開いたのは妻だった。
「あなたの言う通りよ、ペンギンさん。どうしてそこまで知っているのかも、誰があなたを生み出したのかも判らないけれど、あなたはきっと、悪者じゃないわね」
ペンギンは妻の方を向き、頷いた。少し笑っているようにも見えた。