「わしは天下統一を目論んでおる! わしに逆らう者は首を切り落とせぃ!」
地図で見た公園へ駆け付けると、予想していたよりも酷い状態だった。僕たちより先に着いた仲間が、なんとか男を取り押さえていた。
「谷口さん! すいません!」
藤井が駆け付け、頭を下げた。汗でびしょ濡れの僕はそれをあしらい、スケート靴を取り出した。
「これでいいのか?」
藤井は頷き、スケート靴を受け取ると、暴れる男の元へと走り寄った。男はそれを見ると暴れることをやめ、自分の靴を脱ぎ嬉しそうにスケート靴を履き始めた。歳は30代後半、頭は薄く、少し痩せ気味で真っ黒いスーツを着ていた。ありふれたサラリーマンといったところだ。
藤井が再び僕たちのところへやって来た。
「あれでしばらくは大丈夫です。自分は将軍で、趣味はスケートだなんて言ってました」
まさしく誤作動。僕たちの仕事ではたまに見られる状態。その時初めて、藤井はペンギンに気付いた。
「あれ? なんでペンギンなんか?」
ペンギンは思ったより速く走れた。最初に出会った時のようなとろさは無く、僕たちのペースに楽に付いて来れた。もちろん僕たちは本気で走っていたのだが。
「まぁ、いろいろあってね」
僕は全てを話すのは面倒なので、はぐらかした。すっかり落ち着いた誤作動のサラリーマンに妻が専用の注射を打つと、ぐっすり眠り出した。目覚めたときにはもう将軍ではないだろう。僕はスケート靴を回収した。
「ありがとうございました」
頭を下げる藤井に「これからは気をつけてな。お疲れさん」と声を掛け、僕たちは家への道を戻り始めた。