再び、生々しく重い音がした。
鋭利な刃物が人に刺さる音。ついさっきも聞いたばかりだ。
だけど、不思議と痛みは感じなかった。もしかすると、刺さった瞬間に死んだのかもしれない。痛みさえ感じさせないほど、一瞬の出来事。じゃあ、僕はもう死んだのか?
そんなことを考えていたのもつかの間だった。
僕は閉じていた目を開く。まだ生きている!
何故? と思ったのもまたつかの間、僕と貴田先生が握るナイフの間にはなんと真鈴がいた。ナイフは深く、真鈴の胸元へと突き刺さっていた。
「真鈴……あんた、なんで?」
僕と同じことを思い、先に口に出したのはナイフを突き刺した女だった。
真鈴は痛みに歪んだ鳴咽を漏らしながら、ゆっくりと言葉を発した。
「た……谷口、祐希く……ん。ご、めんな……さい」
ごめんなさい。真鈴は確かにそう言った。僕に。
「わ、私にも……どうする……こ、こともできな……かったの。あな……たを、ここへ……は、運ぶのが指令……だ、だったから」
貴田先生は何度もナイフを引き抜こうとするものの、真鈴はそれをさせなかった。手首から相手を掴んで離さない。
「くっ! ……あんたは谷口祐希を連れ去る為だけに生まれたはずよ! こんなこと、するべきじゃない!」
「そう。わ、私はそうだっ……た。でも、き、記憶が残って……いた」
真鈴は僕の方を向き、にっこりと笑った。その顔は、今まで見たどの表情よりも暖かかった。
「あなたに……で、出会った……き、記憶」
そして「早く……に、逃げて」と言った。