「そういえば」
僕はふと思い出して言った。
「僕をここまで導いたのも君だよね?」
後で全てを聞くつもりだったけれど、これだけは先に聞いておきたかった。僕はあの二人の子供を思い出す。最後の最後、本当に瀬戸際で希望をくれたのはあの二人の存在だった。
「そうよ」
猫は頷いた。
「あなた一人でも来れたでしょうけど、時間がかかりすぎるのは困るし、正直あなたは頼りないから」
……うーん……少なくとも、この猫はさっき自分を僕の妻だと言っていた。それは本当なのか? 奏と結婚する、となっている未来なら大歓迎だけれど、こんなに頼られていない僕なんかでいいのだろうか?
「さぁ、早くやっちゃいましょう」
僕がぼんやり考えていると、猫が急かした。頷き、貴田先生の記憶に触れようとした、その瞬間だった。

何かが、僕の脇腹にぶつかった。
「!?」
僕は声にならない声をあげた。
実際、声になったかどうかも怪しい。
とにかく、気が付けば僕は倒れていた。そして脇腹からジワジワと痛みが広がっていく。僕を包んでいた光は、徐々にその強さを失っていった。
僕は気配に気付き、見上げた。
冷たい瞳で僕を睨みつけていたのは紛れも無く、血に染まったナイフを持った貴田先生だった。
「な、なんで……?」
僕は声を振り絞った。猫も驚きとショックのあまり、その場から動けないようだった。