身構えて振り返る。そこに立っていたのはやはり貴田先生だった。僕を追う者。僕の能力を、狙う者。
「久し振りね、谷口くん」
僕は答えない。これは本当にあの貴田先生なのだろうか? あの日保健室で出会った、あの優しい元先生。……僕には同じ人物には思えなかった。いや、思いたくなかったのかもしれない。雨の中、びしょ濡れになった先生は大きく開かれた瞳で僕を睨みつけていた。服装はあの日と同じなのに。僕は何故か、また先生の胸元へと視線が向いた。上の方のボタンが外され、白い胸がやけに目立っている。こんな時にまで、僕は何を見ているんだ。
「もうここでおしまいよ、谷口くん」
先生が一歩ずつにじり寄って来る。僕はもう走る体力も、ほとんど残っていない。
その時、小さな光が僕の視界の隅に一瞬だけ入った。