「奏」
この子猫が奏に関係あるかなんて、僕には全く判らない。いや、常識で考えると関係あるはずなんてないだろう。だけど僕がその名前を口にした時、子猫の耳はほんの少しだけピクッと動いた。それだけで十分だった。僕は今の今まで、奏のことを忘れてしまっていたんだ。あんなにも仲良くしていたのに。ずっと、近くにいたのに。
「どうしたの? 奏って?」
真鈴がじっと、僕を見ている。
「なんでもないよ」
僕は静かに首を横に振る。
雨音が、激しくなっていくのを感じている。