まぁ、あの、その、なんだ。

つまり、アレなのよ。

ほら、前、ゲーム一緒にやったじゃん! 「胸きゅんメモリアル」。

あれでさ、女の子と仲良くなると、親密度が上がって、キラキラしたスチル画面になるじゃん!

今のアタシは、まっさしくそれ!

ホント昔の人はよく言ったよね。マジ、今、アタシの胸にね、刺さってんの!

コ・イ・の・矢・が!

大神ゼウスでも逃れきれない、恋の神エロースの矢よ。

ああああああっ、もう、今すぐにでも会いたいっ!

都庁の窓使って「ラヴラヴラヴラヴ」なんてかいちゃうんだからっ!

うきゃぁ~っ! 大好き、大好き、大好きっ!


喜多川万里(きたがわばんり)は、酔っ払って異常なテンションの従妹・冬生子(とうこ)が帰ってくるなり、奇声を発してごろごろころげまわるのを、絶対零度の冷たさで眺めていた。


草木も眠る丑三つ時に、おめでたいやつだ。


冬生子の恋は、いつもフリーフォール。
すぐにひとりで盛り上がって、しつこくして、相手に嫌われて終了なのだ。

今ゴンドラは絶賛上昇中。
今度はどのくらいで急速落下するのだろう。

「で、どんなヤツなの? お前の攻略キャラは?」
「んー、背が高くて、メガネかけてて、万里さんに似てる人お・・・・・・」

万里は少し考えた後、淡々と答えた。

「あのさ、それなら、俺でよくないか?」

その言葉に、冬生子は全身でいやいやと、拒否をした。

「万里さんに振られたら~、今後の親戚づきあいに支障きたすでしょ。だからダメ~」


そんなもんかなぁ? と万里は思った。


従兄妹以上恋人未満のまま、十年も同居してしまったふたりが、初めて一緒に買ったコンドームは、今日も使用されることがないまま、戸棚の奥に眠ったまま。


酔いつぶれて骨抜きになっている冬生子を、寝室のベッドにほおりこむと、万里はがっくりと肩を落とし、仕事の残りを片づけに自室に戻った。


(かけおち、ってのも早まりすぎたか)


帰れない実家を思い出しながら、万里はPCに向かった。

冬生子の大いびきをBGMにして。

【つづくっ】