覚えてたのは名前だけ。

自分がどこでどんな生活を過ごしてたのか
……どうやって死んだのか。

それさえも、思い出せない。




ふと、一羽の鳥が自分のすぐ側までやってきた。

特にすることもないので、じーっとその動きを観察する。


―鳥って、俺のことみえてんのかなぁ……


左手を動かして、鳥を手で掴もうとする。

けれど、その手は鳥を通りすぎて虚空を掴んだだけだった。


「ははっ、当たり前か……」


左手を目の前にかざしてみる。


―今この手に、もしもナイフを突き刺したら……
一体どうなるんだろう?


そんなことを考えてみる。


「あっ、その前にナイフ掴めやしないな(笑)」


乾いた笑いが口から出た時、急に鳥が翼を広げ飛び立っていった。

それは、人が来たからであって……

後ろをゆっくり振り向くと


「来ちゃった。……よかった?」


遠慮がちに微笑みながら立つ、彼女の姿があった。

先ほどの笑いとは違う、心から自然とこぼれる笑顔になって


「いいに決まってんじゃん」


そして、君の顔も笑顔になった。