その名前を言った途端、由紀恵の手から卵が離れてて
ぐしゃっと言う音をたてて床に落ちていた。


「ちょっ、お母さん?」


あまりに急なことでびっくりしながら由紀恵の方へと駆け寄る。

「あちゃー……」落ちた卵は、見事に割れて床に広がっていた。


「もう、お母さんどうした……」


一向に動かない由紀恵を見上げると、日に焼けてない白い顔が少し青くなっていた。


「えっ……?」


そんな由紀恵を滅多に見たことがなかったので、それ以上何も言えず顔を凝視してしまっていると


「あっ、あら!ごめんね、花音」


こちらに気づいたのか、由紀恵は我にかえったように笑顔に戻り
自分もかがんで卵の始末をはじめた。


「お母さん、どうしたの?」

「なんでもないのよ。ちょっと、ぼーっとしちゃっただけ」


そう言う由紀恵の言葉が真実ではないのが、なんとなくで読みとれたが
これ以上聞いてはいけない、と思い花音は口を閉じた。