「ゆう、いるか?」
優しく柔らかな声は、父のモノだった。小学三年生の幼い自分は、声のする方へ小走りに近づいていった。
「どうしたの、ぱぱ?」
恥ずかしながら、この時の俺は父親のことを『パパ』と呼んでいた。これは中学になって恥ずかしくなり、やめたんだっけ……
「今日はな、お前の妹を連れて来たんだ」
「妹? 僕に妹っていたの?」
「この子はね、ゆうのママとは違うママの子供なんだ」
「ん〜? よくわかんない」
この頃は、母親が二人の意味がよく理解していなかった。気づいたのはもっとあとのことである。
「はっはっはっは、まだ難しかったな」
「うん」
「でも、これだけはわかるね。 この子のことはママには絶対に内緒だよ」
「なんで?」
「ゆうが、おっきくなったらわかるよ」
「わかった、内緒にする」
つくづく思う、この頃の俺は無邪気だったと。今は邪気に溢れてるせいか、オカルトな能力を持つ吉井花につきまとわれてるんだがな。
そのあと、父と指切りをした。俺はこの時の約束をちゃんと守りつづけてるわけだ。
しばらくすると父は、一人のちっこい女の子を連れて来たんだ。父の言う『妹』だ。
「みのりっていうんだ、仲良くしろよ」
実は父の足に隠れて顔だけこっちに出していた。金髪に可愛い容姿のその女の子がこちらに視線をとばしている。
警戒していたんだろう。
「よろしくな、み……なんだっけ?」
「みのりだよ」
女の子は初めて口を開いた。
「覚えにくいなぁ……よし! 桜井みのりだから『さくらんぼ』だ」
「はっはっはっは、桜の実だからだな? なかなか可愛いくていいじゃないか」
今思うと、安直過ぎたかも知れないが、それはそれでいいとおもう。