「いえ、それは標的の協力者であるヤンキー共です。本題はコチラです」
 TRが一枚の紙を机の上に置く。そこには、先ほどより詳しく情報が書かれていた。
「成る程……コイツが、ね」
 標的の名は『トゥディ』。なかなか、優秀な殺し屋らしい。
「今回の依頼はこの殺し屋の始末です。引き受けてくれますよね、『殺し屋を殺す殺し屋』なら」
 当然、引き受けてくれるだろうという顔で、俺を見つめる。
「いや、断る」
 否定的に手を左右に振りながらいう。
「何故です?」
「先ず、報酬はどうなんだ」
 若干、ひねくれた様な口調。
「……失礼」
 ゴホン、と咳払い。
「報酬は七○○万ドルでいかがでしょう」
「まあ、報酬など関係無しに依頼は断らせてもらう」
「何故です?」
 今度は、大きく身を乗り出しながらいう。
「敵の数が多すぎる。一人じゃあ、無理だ。俺はそんな強くない」

「敵の数だけが問題ですか?」
 にやり、と微笑みながらいう。
 間違いない。勝利を悟った顔だ。
「そうだが?」
「それに関しては、心配ご無用。コチラにも、協力者が居ます。優秀な狙撃手が」
「狙撃手? 一体誰だ?」
「優秀な、です。それ以上は言えません」
 口に人差し指を当てながらいう。
「……いいだろう、受けてやる」
「さすがは『殺し屋を殺す殺し屋』。期待を裏切らない」
「そっちこそ、期待を裏切るなよ」
 俺たちはテーブル越しに微笑みあった。
 此の国で最も治安が悪い町、『ワースト』。
 噂程度には聞いているが、訪れるのは初めてだった。
 実際見てみると、それは無惨な風景だった。
 建物の殆どが半壊しており、異臭が漂い、空気が重い。更に、人っこ一人歩いていない。
 まあ、こんな状態の町を歩く奴の気なんか、大凡狂人と相場は決まっている。
 俺はサイドバッグから紙を取り出しながら、ぼやく。
「何で、狙撃屋の正体を教えてくれないんだよ……」
 TRは、「狙撃手は匿名性が命なんだ」等とごまかし、結局協力者の正体を知ることは出来なかった。
 まあ、だからといってどうという事でもなかった。
「どうだ、標的は居たか?」
 耳に装着しているイヤホンから聞こえる声。協力者である狙撃手からだ。
 声からして、年齢は二十代半ばだろう。……恐らく。
「まだだ。後、数百メートル程」
 会うことは出来なかったが、流石に打ち合わせも無しに突っ込むのは不味いと、クライアントが小型の無線機を用意してくれた。
 どんな小言でも聞き逃さないと言う程の性能らしい。しかし、間違って変な事を口走ったのも聞こえるというのは恐ろしい。
「何だ、急いでくれよ。待ちくたびれてんだ」
 ため息混じりに聞こえてくる声。
「そんな事言うなら、アンタが一人でやれよ」
「冗談じゃ無い。今回は二人で協力する取り決めだろ?」
 何だその、いかにも『毎回共に依頼をこなしてますよ』的な口調は……!
 しかしまあ、確かに依頼は二人でやるという取り決めなのは間違いない。
 情報屋が言うには、どうやら標的等は常日頃、室内で過ごしているらしい。希に標的の協力者が買い出しに出ているらしいが、標的は外には出ないらしい。
 つまりまあ、標的が室内じゃあ、凄腕といえど狙撃のしようがないのだ。その為に、『俺』がいる。
 俺は標的宅にスモーク・グレネードやらスタン・グレネードを投げ、敵を屋外に誘導。姿を表した所を、すかさず凄腕狙撃手とやらが狙撃するらしい。
 因みに、標的との距離は三百メートル程度らしい。
 しかしまあ、それだと俺の存在が無に等しい(敵を誘導するのなら、対物ライフル類で建物を撃ち崩せば良いだけだし)ので、標的である殺し屋は俺が殺すという事になった。

「……そういやアンタ、観測手とか居ないの? 狙撃するときは二人で一人とか聞いていたが?」
 俺が協力者である男性に話しかける。正直、狙撃関連は疎い。
「観測手? ああ、居ない。必要ないさ、そんなの」
「へえ……、プロってのは流石だな」
「コチラからも一つ訪ねたいのだが……。拳銃以外は持っていないのか?」
「いや? 他には、スモーク・グレネードにスタン・グレネード。更に予備弾倉とナイフを……っておい、どうした?」
 喋っている途中に、協力者が深いため息を吐いたのだ。
「……何でもない。ただ、イメージしてたのより全然違うな、と思っただけ」
「どんなイメージをしてたんだよ?」
 おおかた、良いイメージでは無いらしい。
「まあ、機関銃や散弾銃を持ちながら暴れている様なイメージかな」
 俺は何処かの化け物かよ。
「そりゃあまあ、俺だってそうだからな」
「ん? どういう意味だ?」
「狙撃手ってのは、もっと凄い奴等なのだと思ってた。超長距離からの狙撃とかな」
「ははっ、そうかそうか」
 協力者は笑いながらいう。
「そりゃあ、俺だってその気ななれば一キロ先の標的だってしとめられる。だが、今回はそういう類では無い」
「ふぅーん、そっか」
 俺は呆気無く返事した。正直どうでもよくなっていた。
「そういや、アンタはなんて狙撃銃を使っているんだ? PSG-1?」