俺様彼氏と空手彼女





「どういうこと…?」





「…。あいつは、止めたほうがいい。」





「え?」






「あの男は、お前を不幸にする。」






「な…っ」







私を不幸にする?


葵が??




何を…。








「あいつは、お前みたいな女が珍しいんだと。本気じゃないって、聞いた。」







何、それ…。





そんなの、嘘だよ…ね?






葵は、そんなこと…

 




愕然として、言葉が出なかった。








「だから、今からでも引き返せ。今ならまだ傷が浅くて済むだろ」








傷が浅い?







もう引き返せないくらい…。









好きなのに。




































「嘘、だよ。そんなの…。葵はそんなヤツじゃない」










やっとつむぎだした言葉はひどく弱々しく、説得力に欠けるものだった。







次第に不安で包まれ、私の体は震え始める。









「嘘なんかじゃねぇよ。嘘だと思うんなら、自分の目で確かめろよ」










踵を返し、歩き始める隼人。





私も、黙ってその背中を追った。







行ってはいけない。


きっと後悔する。



二度と、後戻りできなくなる。











そんな言葉が、頭の中で何度もリピートされる。







だけど、足は止まらなかった。







隼人の言うことが嘘なんだと、確信が欲しかったからかもしれない。










あんなに、優しく笑ってくれるようになった葵の姿が偽りだなんて信じたくない。






いつの間にか、私の心は不安で一杯だった。
























自分でもびっくりする。






ちょっと前まで大嫌いだったのに








今はこんなにもあいつで一杯だなんて。


















隼人に連れられて来た場所は、私がいた西口ではなく北口だった。







なんでこんなところに…










「見ろよ」






隼人の指差す方向を、言われるがままに見る。











この時点で、見るのを止めればよかった。









私はその後、ひどく後悔した。








「…っ!?」















私がそこで見たのは、
















凜と葵が










キスしてるところだった。












驚きと、喪失感で立ち尽くす私を







隼人はそっと、連れ出してくれた。



























漠然としか気持ちが、私にのしかかる。








悲しみで何も考えられなくなった頭に、さっきの映像だけが繰り返し頭をよぎる。










涙が、止まらない。













まるで、心がえぐられたかのように痛い。













「璃依、大丈夫か…?」







心配そうな隼人の声がするが、それに反応する気力はない。













「あんなの、見せて悪かった。でも、騙されて傷つくお前なんか見たくなかったんだ」












ちょっと待ってろ、と言うと隼人は立ち上がった。









だけど、私は無意識に隼人の服の裾をつかんでいた。





「…璃依?」







「…いで…」







「え?ごめん、何?」
















「隼人行かないでよぉ…!!」









気が付いたら私は、振り向いた隼人の胸に顔をうずめて泣きじゃくっていた。































































「落ち着いたか?」









「うん…。ごめん、隼人」










「いや、別にいいよ」







凜と葵を見て耐えきれなくなった私は、隼人に抱きついて声をあげて泣いてしまった。










私は、隼人の気持ちに答えられなかったのに







それでも隼人は、変わらず優しくて。









その優しさに、すがってしまったんだ。











「俺は、お前を裏切ったりしない。」






突然真剣な顔で切り出す隼人に、私は曖昧な否定しかできなかった。






「私は、別に裏切られたわけじゃ…」








「同じことだろ。お前以外のヤツとキスしてたら」








「私と凜を、見間違えたのかも。」










そう、きっとそう。






私は自分に言い聞かせるかのように、何度も頭の中で呟く。







私と凜を完璧に見分けるのは、お母さんとお父さんくらい。






隼人でさえ時々間違ってた。














だから、見間違えたんだよ…。





今まで私の元を離れて、凜を好きになっていった人たちとは違う。








違う。絶対に違う。














「お前があいつを信じたい気持ちはわかるけどさ、現にアイツは…」






「言わないで!!」






聞きたくなかった。







聞いてしまったら、葵を信じられなくなるような気がして…









「璃依…」









切なげな隼人の声が、耳を通り抜ける。






だけど、続いて聞こえた言葉は私の心を激しくかき乱した。





















「アイツは…、お前と凜を間違えるはずはないんだ」










…え?







どういう意味…?












ショックで頭の回らない私には、何故隼人がそんなことを知っているのかということに疑問を持てなかった。





ただただ、その話がすごくショックということしかわかってない。














































「隼人っ、どういう意味なの?」




聞くのは怖い。





けど、そんな気持ちとは裏腹にあんな言葉が出てしまっていた。









「…実はな」






隼人は、私と目を合わせないように少し目を伏せて口を開く。

















「アイツは前、璃依のフリして近づいた凜をすぐ見破った」










凜が…












そんなことを…。










私と葵を応援してるって、言ったのに…。








「それに、お前をここで待たせて凜と別の場所で会うなんておかしいだろ?」
















信じてた人が、私から離れていく。






私は、一人だ…。








































「…そっか。色々教えてくれてありがとね。私、帰るよ」












ふらりと立ち上がる。





にっこりと隼人に笑いかけたつもりだけど、笑えてない気がする。








「…っ」





そんな私を見て、隼人は切なげな苦しそうな顔をした。



何かに後悔してるような…。











そして、何か迷ったような表情をしたあと









私をまっすぐ見据え、切り出す。












「ごめん、璃依。実は…」








「…?」










































「璃依…?」












ドクッ







心臓が、一気に跳ね上がった。






この声は…。























おそるおそる振り返る。









そこには想像した通りの人物











葵がいた。

























「…あお、い…」










ひょっとしたら隼人の言うことは何かの間違いでは、と思っていた私にとって












目の前の現実は、ひどくショックを受けるものだった。












いつも通りの葵の腕に絡み付く凜。











その光景が、私を愕然とさせていた。














「あれー、璃依。こんなとこで何してんの?」












凜だけが、場違いな明るい声を出す。








「あ、そうだ。聞いてよ。私たち、付き合うことになったの」























「…え?」
















葵と凜が、付き合う…?


















そんなの、嘘…。
















これは、夢なんだよ。










だってこんなこと…、
















あるわけないもん…。












夢なら早く…っ







覚めてよ。






覚めてよぉ…っ!! 














俺様彼氏と空手彼女

を読み込んでいます