「ななり、ちゃん?珍しい名前なんだね。私は日高。日高吏花です。あ、因みに…」

 彼女は眩しく微笑った。可愛らしいソプラノの細い声は細い喉から発せられている。きっと声帯も何もかもが女の子サイズにあって、…いや寧ろ病的な、何かにおける、…

「右手が動きません」





 笑顔にあった。笑顔であるところのその少女、日高吏花は少し大きな声でしっかりと言う。自らの肉体的欠如を。私はこの空間が冷めた様な感覚に陥った。






 彼女は何を思ったのだろう。私を何処に貶めようというのだろう。私は目を細めた。私は昨日の一件でより一層非常に疑り深い人間に成り下がっており、──女なんか特にだ、──私は知っていたのだ。全員が全員結局のところ私の様に曲がったものを存する者なのだと。

「違うの、なんだろう…奈也ちゃん見てたら言いたくなっちゃって…ごめんね、迷惑なことして」

「私が可哀想に見えた?」

 吏花は一寸理解出来ない、という表情をした。私は右手で髪を耳に掛けながら立ち上がる。何故して今まで二人して座っていたのだろうか。あの店員も流石にちらりと此方を見た。

「私のこと可哀想に見えたからじゃないの、可愛い自分にも欠陥くらいはあるんだって言ってあげたくなったんじゃない」

 そして私は卑怯なことを言い放つ。