「今日は学校で何かあるの?」

「…え?」

 いきなり客扱いではなくなったことが気にはなった。けれど、結局私は客ではないからそんな些細なことはどうでも良かった。それよりも今日学校で何かある、訳ではない筈だ。確かに私には学校という場に何かあるけれど、学校全体として何か行事がある訳ではないと思う。

「別に、なにも」

 その店員は少し何処かへ目をやって、首を傾げるような仕草をした。何故こんなことを聞いたのだろう。学校をサボっているであろう私ごときに。

「同じ制服の子が楽譜の所に居るから何かあるのかなって」



 上手く言い表すことが出来ないけれど、私は、嫌な気分になった。何で、電車で通わなければならないあの高校の生徒が、二人も揃って、同じ楽器屋に?彼奴の──早希の、回し者なのではないか、と私は馬鹿馬鹿しくもこの事態を捉えてしまった。

「…や、知らないけど…どんな子」

 どんな子かあ、その店員は言った。何処と無く嬉々として。──ああ、可愛らしい女の子なのか。であるなら、違う。昨日の不愉快な集団の中に青年の表情を綻ばせる程の美少女の存在はなかった。