直哉は少し下を向いて黙りこくった。さっきのなんかより痛い沈黙。突き刺さってくるような、ものだった。
「それ、って…」
「私が、人とセックスしてお金にしてるってことでしょ?…だから汚いの。近寄らない方が良いんじゃない…」
私は今度こそ何もかも教室に置いて家にでも帰ろうと思った。カバンに何をされようが教科書に何をされようがもうどうでもよかった。
「…笹川!」
結城直哉は其処で──私の腕を掴んで、私の血だらけである手首を、引き寄せて、────舐めた。
「…っ!?何、して…っ!」
「血、出てるから…ほら、保健室行こ」
「…──馬鹿じゃないの…!良いから離して」
「放っとける訳ないじゃんか!」
…はじめて。
生まれて初めて私は、人に心配されて怒鳴られた。怒鳴られたことはあるけれど、私を、思って、だ。
静かになった私の腕を引いて直哉は歩き出した。彼に、裏切られたら私はきっと死ねるだろうな、そう考えるくらい、初めて優しい人に出会った気がした。