私は苛立って苛立って仕方が無かった。何故って、目の前の直哉が余りにも情けない表情でしおらしく謝罪を続けるのだから。
「私…別に傷付いてないって…言ってるじゃん」
彼の息継ぎの際に私が早口でそう言ってやると、直哉は首を横にぶん、と振った。──このひと、子供なんじゃないの。
「だってあんな意味わかんないこと食堂で言われて──」
「!」
私は何だか泣きたくなった。直哉は、私が、綺麗な人間だと思っているのだろう。裏切る、感じがした、というか。なんだろう。私、今、傷ついたかも知れない。
「笹川…?え、どうし」
私は彼の言葉を遮った。
笑 顔 で。
直哉が私のいきなりの笑顔に気味悪いとでも思ったのか不思議そうな顔をして、黙った。
「…嘘じゃないから…アレ」
あぁ、優しいひと。
「アレ…って…──え、ちょっと、待って」
風、が吹いたような、
世界、が走るような、
「…早希が言ったことは全部…本当だよ、ってこと」
もういい。
そんな風に思った。