ウィスキー

「あんた確かいつもビターだったよね？」


注文を取ろうと店主が訊ねた。


「うん・・・」と言ってから僕は少し考えた。「今日はウィスキーを貰おうかな。ボブがいつも飲んでいたやつ」


暫くして僕の前にウィスキーの注がれたグラスが差し出された。

僕は今までウィスキーはあまり口にしたことはなかったが、悪くない味がした。

僕はそれを飲みながらボブのことを想った。

ボブがここで言った一言一言を想い出した。

夫人を亡くした後、きっとボブはすぐにでも後を追いたいと思ったに違いない。

しかしそれはできなかった。

娘がいたからだ。

それからのボブは、娘を育てることに自分の生き甲斐みたいなものを見出したのだろう。

そして娘が嫁ぐと今度はそれを酒に求めたのだ。

酒を飲み亡き妻の幻影に逢うことに。
　


きっと僕はこれからどこにいても、ウィスキーを口にするたびにボブのことを想い出し、僕の心はこのパブへと運ばれるだろう。


そして僕はまたボブに素敵な話を聞かせてもらうのだ。