僕はそれからバーケンヘッドを離れるまでのおよそ七ヶ月の間、時間を見つけてはこのパブへと足を運んだ。

ボブはそのたびにいつも同じ席で同じウィスキーを飲んでいた。

そして僕に素敵な話を聞かせてくれた。

もちろんその話のほとんどは亡くなった夫人のことだった。

どこで出会いどう口説いたのか、はじめて二人で行った旅行はどんなだったか、プロポーズはどこでどう言ったのか、最初の夫婦喧嘩は何が原因でどう謝ったのかなど、ボブはありとあらゆる話を聞かせてくれた。

そんな話を聞いているとき、僕は夫人が亡くなったことなどすっかり忘れていた。

ボブも同じだったのではないだろうか。

僕がこの街を離れる頃には夫人のことまで、まるで昔からの知り合いのような気がしていた。
 


このパブに来てボブの話を聞かせてもらうことはとても素敵な時間だった。

最後の夜、僕はボブにそう告げた。



「またこの街に来たらこの店に来い。俺はいつもここにいる」
 

ボブはそう言うと右手を差し出し、僕たちは握手して別れた。