新しいグラスを受け取るとボブは再び話しはじめた。


「娘はまだ幼かったから、最初は母親の死が理解できていなかった。疲れていて眠っているんだろう、くらいにしか思っていなかったんだ。だがおれがもうママは起きてこないんだ、二度と目を覚ますことはないんだと言うとようやく理解したらしく、その両の目からみるみる涙が溢れてきた。その痕がいつまでも顔に残るんじゃないかというくらい鋭い涙だった。娘を抱きしめおれも一緒に声を上げて泣いたよ」
 

暫く僕たちの間に沈黙が訪れた。

僕はそれを埋めようと、ポケットから煙草を取り出し火を点けた。

しかしそんなことは何の役にも立たなかった。

沈黙は僕の吐き出す煙を吸い込み、一層重くなったようだった。