コツン。

右手で握り拳を作り、ごく
軽く後頭部を小突いてみた。


でも亜莉紗は『ん……』と
小さく吐息をもらしただけで、
起きる気配はない。


「起きろっての。

――キスしちまうぞコラ」


ふてくされた声で言うと、
爽介はマグカップをテーブルの
隅に置き、背後から亜莉紗を
包み込むようにテーブルに
両手をついた。


斜め後ろから亜莉紗の顔を
覗き込むように少し体を
屈めると、フワリと甘い
シャンプーの香りが鼻を
くすぐる……。


――今起きなかったら、
マジで知んねー。


爽介はその優しい毒の香りに
しびれたような錯覚を感じ
ながら、ゆっくりと瞳を
閉じた……。



      ◇ ◇



ぼんやりと視界が開けてくると。


そこにあるのは、なんか
見覚えのない物ばっかだった。


見覚えのない分厚い本。


あたしンじゃないシャーペン
とか蛍光ペン。

それに、あたしンじゃない、
濃いブルーのマグカップ。


――あれ……でもなんか、
これは何回か目にした
記憶があるな……。