「……今まで、ハッキリ
させなくて悪かった。

これからも、いい仕事仲間
として一緒にやってこーぜ」


心からそう言うと、爽介は
クルリと雫に背を向けて
歩き出した。


背後からかかる声も、
追ってくる足音もない。


声を殺して、あの場で
しばらく泣くのかもしれない。

――そう思ったから、その
まま歩を緩めずにまっすぐ
通用口まで進んだ。


仕方ない……自分には、
彼女の気持ちに答えてやる
ことが、できないんだから。


知らず知らずのうちに
大きなため息をつきながら、
厨房へ向かう側の通路を
歩き出したとき――。


「――モテる男は大変だな」


「………!?」


突然かけられた声に驚いて
顔をあげると――

通路の途中に、壁にもたれる
ようにして見慣れた長身が
立っていた。


「貢! 
おま……見てたのかよ!?」


「見えたんだ。
別に見たくて見たんじゃない」


シレッとした口ぶりで説明
すると、貢は壁から背を
離して歩み寄り、ポンと
爽介の左肩を叩く。