「だからなくしたって、
何度も言ってるでしょう。

私を疑ってるの?」


「いえ、そういうことでは
ないんですけど……」


なんか、穏やかじゃない雰囲気。


2人のスタッフは背中を
丸めちゃってて、困り
切ってるみたい。


反対にそのお客様は背筋を
伸ばして――てゆーかふん
ぞり返って、高慢な空気を
出しまくってる。


あたしは別のお客様の
応対をしながらも、チラッと
視線を走らせてそのお客様を
観察してみた。


ワインレッドのワンピースに
身を包んだ、40代くらいの
オバサン。

パールとかサファイアとか、
統一感のない指輪やネックレスを
いくつもジャラジャラと
つけてる。

濃いメイクに、手には高級
ブランドのバッグ。


よくいる、悪趣味なセレブ
くずれそのものね。


『ありがと、助かったよぉ〜!』


お客様がはけて別のコが
応対してる1組だけになると、
咲希が周りに聞こえない
ような小声で耳打ちしてきた。