それは、唇が触れるか触れないかの、本当に軽いキスで、
だけど、この前の何倍も幸せなキス。

「帰ろうか」

照れ臭そうに頭を掻いて、そう言った大和の視線の先には、次々と下校して行く生徒の姿があった。

「もうこんな時間なんだ。帰ろっか。大和に服返さなきゃいけないし」

「あー、いつでもいいよ、そんなの。だって俺たち、付き合ってるんだし?」

すっかりテンションの上がった大和。

だけどあたしは、ひとつ気がかりな事を思い出していた。

「あたしさ、この前大和んちに、傘、忘れていかなかった?」

佳奈の顔が、頭に浮かぶ。

「傘? あったかな。どこに置いていった?」

「えっと、玄関の脇に立て掛けて置いたと思う」

「わりー、分かんない。全然気づかなかった」

あったかなと、首を捻って考え込む大和をじっと見つめていると、

「どうした?」

大和が、あたしの視線に気づいた。

「ごめん、傘、昨日佳奈が持って来てくれたんだった……。あのさ、あたしは大和を信じていいんだよね」

胸の中にあった不安を言葉にすると、大和は何かに気づいた顔をして、そして、静かに口を開いた。