生活感のない無機質で冷たい部屋。でも何故だかひどく落ち着く。

一人では多きすぎるキングサイズのベッドから降りて、外の空気を吸おうとバルコニーへと出た。

そういえば
あれから、どのくらいの時間が経ったのだろう?

依然、雨は降り続き
空は暗い闇のまま。

ただ満月だけが輝いている。

「ずっとなんだ。」

突然、背後から声がした。
ゆっくり振り向くと、あの彼が微笑みながら佇んでいた。

「此処はずっと、年中、こんなかんじなんだ」

「こんなかんじ、って
ずっと雨で暗闇って事?」

「そ。あと、満月もね」

彼はさっきまで私が寝ていたベッドに腰掛けて優しく言った。

「此処はいつだって
"満月の雨の夜"
あの日から…、ね。」

「あの日から…?」

含みある言葉を思わずおうむ返ししてしまった。しかし彼はそんな疑問を受け流した。

「大丈夫。すぐに慣れるよ。
ルナなら」

暗闇の中で、
ぼんやりと優しく私を照らしている満月を睨んだ。
それから、
視線を彼へと移動させた。

「ねぇ、」

「ん?」

「貴方の名前は?」

「…Ray。」

「そう。レイ。
教えて。貴方は一体
何者なの?
私を連れて来て
どうするつもり?
わからない事が多すぎてっ……」

すると突然、抱き締められ、
私の言葉は遮られた。

「大丈夫。
キミに危害は与えないから」

「…答えに、なってないわ」

困ったように彼が苦笑いをした。顔は見えないけれど、なんとなく想像できた。
すると、彼は私から離れ、少し距離をおいて、方膝をついて私を見上げる。

まるでそれは、騎士がお姫様に忠誠を誓うようなポーズで、

手慣れた様子で、そのまま私の手をとり、甲にキスをした。

「おかえりなさい、
月の国へ。…ルナ姫」