彼は一体誰で、
どうやってこの7階の
ベランダへと
いつの間に来たのか、
何が目的なのか、

疑問は次々と
沸き上がったけれど、
どれも言葉となる前に
喉の奥の方で弾けて、
消えた。

否、
言葉に出来なかった。

「……ルナ。」

彼がまた
愛おしそうな声で
私の名を囁く。


「…私を、拐いにきたの?」

やっとの思いで絞り出すように放った言葉は、あまりにも弱々しく、馬鹿らしいもので、
言ってから少し後悔した。

けれど、彼は依然、口許に微笑を浮かべながら私を見つめる。
それから
予想外の答えを口にした。

「…そうだよ。だから
おいで、ルナ」

彼の白く透き通った手が
私の傷だらけの手を取る。
そして流れるような動作で優しく、強引に、引き寄せられた。薔薇のようなキツイ香りが私の鼻腔をくすぐった。

「もうキミは、独りじゃない。
ボクが傍にいる。

…永遠に、ね。」


そこから先は覚えていない。

どうやら
私は気を失ったらしく…、

目が覚めると見覚えのない部屋にいた。