『満月の雨の夜は
決して外に出ては
いけないよ。
ヤツが君を
拐いにやって来る。
そして君も
ヤツに惹かれる。
だから、ね
…約束だよ?ルナ…』

小さい頃に、父から
おまじないのように
何度も何度も
言われ続けた言霊。

『満月の雨の夜の事』

いつもは穏やかで紳士な父が、その時ばかりは険しく、そして哀しそうに言うものだから
私はずっとずっと
その"おまじない"を
頑なに守り続けていた。


しかし
12でそんな父を亡くし、
母は私が生まれたと
同時に亡くなっていた為、
遠い親戚に引き取られてからは
"おまじない"の事は
気にしなくなり、
その存在は薄れていった。

15で地獄とも言える
親戚の元を離れた。
自由になれた。
解放された。
寂しくない。
寂しくない。
唱えるうちにいつしか
涙は出なくなった。