「赤谷君…ちょっと落ち着いて」

喧嘩の時はいつもそうだ。
俺が何か言うと先生はすぐに大人になって
そんな微妙な距離さえ悲しくなる


「その“赤谷君”っていうのも嫌だ」

「え?」

「寛人でいいって言ってんじゃん。
一応…もう付き合って二ヶ月も経つんだし」


電話の向こう側で、少しだけ動揺する先生を感じた


「会えないのは悪かったって思ってるよ。
でもそれは、せき…寛人の受験が終わってから考えようと思ってたの。
寛人だって言ってたでしょ?
受験さえ終われば気兼ねなくあたしと会えるって」


寛人って呼んでもらえた、その嬉しさと
やっぱり正解しか言わない先生の言葉に心が揺れる


「…それはそうだけど。

もぉ分かったよ。
俺が悪かった。

今は受験ことだけ考えるし、それが終わるまでは文句も言わない。
先生に迷惑もかけないから。
それでいい?」


自分でも嫌な言い方だなとは思った。
でも本当は少しでも会いたいとか
寂しいとか
そんな単純な言葉が先生の口から聞きたくて

こんな教科書みたいな言葉は聞きたくなかったんだ