外は海から吹く風が心地よく、潮の香りがした。
店内の騒がしい雰囲気から一転、静かな波音と時々通る車の音だけが聞こえる。
身に覚えのない番号を不審に思いながらも、何度もかかってくるので気になった。
あたしは意を決して通話ボタンを押す。
「もしもし・・・」
「・・・・・・」
「・・・どちら様ですか?」
「・・・・・・」
無言電話?
イタズラだったら気味が悪いので切ろうとした次の瞬間・・・
「奈緒・・・?」
その声に胸がぎゅうっと締め付けられた。
優しくて・・・懐かしい声・・・
そう、母の声だった。
「お・・・お母さん・・・?」
「奈緒・・・奈緒・・・っく・・・」
電話越しに泣いているのがわかる。
母の声を聞いたのは何ヶ月振りだろう。
「奈緒・・・ごめんねごめんね・・・ごめ・・・」
何度も謝る母の声は弱弱しく、胸が張り裂けそうになった。
「お母さん・・・今病院・・・?」
「うん・・・お母さんね、ちょっと病気になっちゃって・・・ずっと入院してたの」
「うん聞いたよ・・・」
母は昔から精神的に弱い人だったから、義父にあたしの事を打ち明けられて物凄くショックを受けたに違いない。
先日警察の人が病院へやって来て、義父の事件の事を知ったと母は言う。