誰だろう。


何年も入退院を繰り返しているあたしは、この病院にいるだいたいの人の顔は覚えている。


それに、こんな顔の整った人のことを忘れるわけがない。


カッコイイ…。


無意識に思ってしまった。


「ねっ、大丈夫なん?」

「…あっ、はい。普通に元気です」

「そっか…、ならよかった」


安心したように笑う彼。


他人のことなのに。


彼を見て、あたしはそんなことを思ってしまった。


素直に喜べない自分。


昔はこんなんじゃなかったのにな。


「君さ、芙由ちゃんだろ?」

「なんで、あたしの名前!?」

「なんででしょうか?」

「あたしが質問してるんだけど……って、あ!」


彼がおもむろに置いた黒いケースを見た瞬間、なんとも間抜けな声を出してしまった。