母は目隠しもなしに部屋に入ってきていた。私が大半の感情を無くしてしまったことに気付いたのかもしれない。喜びの感情がない私を恐れる理由はないのだから。

「なによこれ」

母が物音に気付き振り返る。パロだった。三日ほど二階から下りて来ない私を心配して上がってきたらしい。

「汚い犬ね」

冷然な微笑。母はパロを蹴り飛ばした。中空を浮遊し、壁に叩きつけられる。威勢のいい鳴き声も聞こえなくなった。パロは途端に動かなくなっていた。