田中さんに手紙を返すと、がっくりした様子で帰って行った。姿が見えなくなったのを確認すると、私は慌てて覚えた文章をそのままノートの隅に書き写した。

「にちようクラスでのんびりひなたでにんげんかんさつえきでやるよ」と。

急いでいたため漢字をを使わなかった。これがのちに重大な鍵を握っているとは、この時は思いもしなかった。


この文章は、私に渡した手紙に何か関係しているんだろうか?ノートを広げたまま下駄箱から自分の靴を取り出し、お気に入りの靴に履き替え歩き出した。


文章が解読できたのは、約束の前日の事だった。

その日の放課後、クラスの男子は野球をする予定を立てていた。その会話に、私と華代も混ざり和気藹々と話していると、和樹君が俊チャンに話をふった。


『俊ってさ、野球選手の中で誰を目標にしてやってるんだ?』

皆は興味津々という顔で見た。俊チャンは照れ隠しからなのか、皆から視線を外し窓の外を見ながら言った。

『俺さ‥金子が好きなんだよな』

『金子ってサウスポーの?』

『そう。投球フォームから試合後のお立ち台での会話とか、全てが好きでさ』

胸を躍らせているような口調だった。


そうなんだ~。
今まで知らなかった情報を聞けて私も嬉しくなった。家に帰ったら、早速「俊チャン・ノート」に書き込もう。

右手の人差し指で自分の髪の毛をクルクルと巻きつけていると、突然閃いた。あの<ヒント>って‥‥


動かしていた手を止め、その場に立ち上がると皆が私に注目した。

『桜井ど、どうしたんだよ?』

『私‥帰る』

『どうしたの?結‥』

『華代ごめん!!私調べたい事が思いついたから帰るね、じゃ!!』

それだけ伝えると、自慢の足で家に向かって走り出した。


『調べたい事が思いついたって、どういう意味だろう?』

『さぁ~‥桜井の考えていることは分からん』

皆が不思議に思っている頃、俊チャンだけは涼しい顔で皆の輪に混ざっていた。