『いいな‥』

ボソッと声に出したら、何だか急に寂しくなってきた。華代は帰っちゃったし教室には私一人しかいない。

教室の中を見渡していると、ひんやりとした冷たい風が私の体を通過した。これは早く帰れって事を知らせてるのかな?私は立ち上がり教室の窓を閉めて鍵をかけた。そして、ランドセルを背負いゆっくり歩き出した。でも、ある人の席で自然と足が止まった。

俊チャン‥


俊チャンと田中さんの机の横には、まだランドセルが置いてあった。

二人は一緒なのかな‥
何処にいるんだろう‥
無意識に右手が俊チャンのランドセルへと伸びていた。


心臓の音が廊下にも聞こえているんじゃないかと思うくらい、ドキドキしていた。それに手も‥徐々に汗ばんできた。

あと少しで触れる。


そんな時、突然教室のドアが開いた。私は伸ばしていた手を瞬時に引っ込め、その場から離れるべきか躊躇していた。すると、教室に足を踏み入れたのは‥

『あれ?まだ残ってたんだ』

不思議そうな顔で私に近づいてきた。


『うん‥でも、もう帰るから‥』

私は下を向いて早口で言った。だって‥ここに俊チャンがいるって事は、すぐに田中さんが戻ってくるはずだから。避けられるなら逢わずに帰りたかった。

肩ベルトを握り締め、俊チャンの横を通過しようとしたとき


『あっ!!ハンカチ落ちたよ』

そう言って地面に手をつけ、何かを拾うフリをしてハンカチを渡してきた。

『えっと~‥??』

頭を横に傾けて現状を把握することに精一杯で、その場から動けなかった。


確か‥
帰ろうとして俊チャンの横を通ろうとしたら、ハンカチ落ちたって嘘ついて、それで私にハンカチを渡してきて‥

頭の中を整理しながら手に持っているハンカチを見つめた。


『気をつけて。じゃ、また明日』

声に反応して目線を上に持っていくと、後ろの方から冷たい視線を感じた。振り返ると、睨みつけるように私を見ていた。

しばらく見ていたが何の反応もなかった。その行為が返って恐怖心をあおり、私は逃げるようにその場から立ち去った。