『だから‥今日は、あいつ等と一緒に遊ぶ約束してるから無理だけど‥放課後に予定が無い日なら‥いいよ?』

視線をドアの前に立っている男子に向けると、話が終わったんだと勘違いして、こっちに近寄ってきた。

返事は一つしかないのに何て言えばいいのか、うろたえてしまった。でも黙っているのはよくないと自分に言い聞かせて、耳元で囁くように言った。


『私も‥放課後予定の無い日なら‥』

恥ずかしくて。
それだけ伝えると、鬼ごっこの鬼から逃げるように教室を飛び出した。足の速さだけには自信があったから、あっという間に下駄箱まで辿り着いた。下駄箱に手を乗せて乱れた呼吸を整えた。

あんな大胆な行動をするなんて‥私どうしちゃったんだろう。火照っている頬を両手で冷まそうとしたけど容易ではなかった。

その時、右後ろから肩を叩かれて驚きながら振り返った。私の肩を叩いたのは‥田中さんだった。警戒心をむき出しにして聞いた。


『な、何?』

すると不気味な笑みを浮かべながら私を見てきた。

『俊といつ一緒に帰るの?』

『な、何でそれを知ってるの?』

教室の中には田中さんの姿は無かった。もしいたら‥あの場で、あんな話は出来ないし大胆な行動も怖くて出来なかっただろう。

『‥もしかして廊下に?』

その答えを聞くと、私の横を通り下駄箱から自分の靴を取り出した。

『俊、先生に呼ばれていたのに職員室に来なくてね。だから明日の放課後にでも、先生に言われたことを伝えようと思うんだ。明後日は、クラスのイベントについて話し合って。って、そんな事してたら一緒に帰れる日はないかもね』

『どうして!?』

『私には時間がないの!!』

今までとは明らかに態度が違う。

『時間がないってどういうこと?』

質問しても笑顔で返されて答えてくれなかった。田中さんは靴に履き替え、そのまま私の前から姿を消した。


『嫌な予感がする‥』

私の勘は見事的中し、それから何週間も邪魔されて俊チャンと一緒に帰れる日は来なかった。