私の頭の中では「似合っているよ」「かっこいいじゃん」「大人っぽい」など、ほめ言葉が次々に浮かんできた。けど‥

私が言ったら嘘っぽく受け取られちゃうんじゃないかって思ったから、すぐに返事が出来なかった。


頭が思うように働かない中、試行錯誤しているとあるアイディアが思い浮かんだ。和樹君に不快感を与えずに、この場で率直な意見が言えるのは「あの子」しかいない。

自分でも不気味な笑みを浮かべていると分かっていながら、緩んだ頬を引き締めることが出来なかった。


『桜井、少し怖いんだけど。やっぱ似合ってないのか‥』

『別に。ねっ!!華代はどう思う?』

和樹君に背を向けて華代に話しかけた。突然の呼びかけに華代は目をパチクリさせて私を見つめてきた。私は「頑張れ」とエールを送るつもりで、笑顔でウインクをした。


すると華代の体が、雨の中飼い主を待っている子犬みたいに小刻みに震え始めた。

『ムリ』

声には出さず、口パクで私に訴えてきた。だから私も続けて口パクで返事をした。

『ダイジョウブ』


私たちのやり取りは、本当に一瞬で絶対に和樹君には気付かれていない。

少し強引なやり方だってことは重々承知のこと。それでも、少しでも二人が会話出来るチャンスがあるなら大切にしたかった。だって‥

私の大切な親友だもん!!親友の笑顔は私の幸せでもあるの。


私の熱意に負けて、華代は少し頬を赤らめて言った。

『似合っているよ。‥かっこいい‥よ?』

視線を和樹君に移すと、光が反射してて絶対とは言い切れないけど‥でも多分‥和樹君の頬も赤く染まっているように見えた。

今まで和樹君の気持ちなんてあんまり考えもしなかった。でもこの反応って。そう思い始めたら興奮してきて、少し二人をからかいたい衝動に駆られた。


『だってさ。どうよ?』

『どうって‥』

徐々にシドロモドロになってきた。やっぱり和樹君も華代の事‥

核心に迫ろうとしたとき、和樹君が続きを話し始めた。

『うれし‥い。めちゃくちゃうれしい!!』

『あ!ううん!!』

いつの間にか二人の世界が作られていて、私の入る隙間なんてなくなっていた。最後に一つお節介でもしていこうと思い、嘘の情報を流した。