『よっ、桜井』


誰が見ても機嫌がいいのが伺えた。でも、昨日サッカーの試合や練習があるとか聞いていないし‥私には、どうして満面に笑みを浮かべているのか理由が分からなかった。

間違い探しをするかのように、じっと和樹君を見つめていると昨日と比べて唯一変わっている所を見つけた。

「髪が短くなった‥よね?」
さては、この髪型が気に入っているのかな。頻りに髪を触りだした。


『髪‥切ったよね?』

似合うとか、似合わないとか。そんな感想ではなく結果だけ言った。すると、和樹君の手が止まり私の方を向いた。

『桜井って良く気が付くとか言われるだろ?』

そんな事はないけれど、和樹君の笑顔に免じて今だけ良く気が付く女になった。

『かもね』

短く返事をすると、私の顔をじろじろと見てきた。その目つきが少し怖かったので、一歩後ろに下がって華代の服の袖を掴んだ。


『な、何?』

裏返った声を聞いて自分が何をしていたのか気付いたようだ。さっきまで気にしていた髪型を、いとも簡単に乱していた。

「私‥何か気に障るようなこと言ったっけ?」
でも、思い当たることが見つからなかった。


『あっ!悪い‥』

それだけ言うと下を向いたまま黙ってしまった。

何か私に聞きたそうな雰囲気ではあるけど‥でも中々話してくれない。私はどうすることも出来ず、和樹君が話し出してくれるのを静かに待った。


しばらくすると、顔を上げて少し緊張した面影で私に話しかけてきた。

『この髪型、俺に似合ってる?』

突然の質問に少し驚いた顔で見てしまった。「えーっと‥」そんな事聞かれるなんて思いもしなかったので、私たちの間に沈黙が流れた。