『はい』

そう言って、俊チャンは私の目の前に手を差し出してきた。私はどうしたらいいのか分からなかったので、俊チャンの顔と手を交互に見た。すると私が迷っているのを見かねてか、俊チャンから私の手を掴み、体を起してくれた。

しばらくの間、目と目が合っていたけど‥何も言ってくれなかった。きっと、怒ってるんだよね‥


「ありがとう。それから‥ごめんなさい」って言いたかったけど言えなかった。

私は、ふいにその場から一歩後ろに下がり、俊チャンとの距離をあけた。そして、ランドセルの肩ひもを強く握り締め、下唇を噛んで頭を下げようとしたとき

『怖かったんだよね?』

今にも泣き出しそうな声で私に向かって聞いてきた。私が返事を返す前に俊チャンは話し出した。

『ごめんね。一緒にいたのに‥怖い思いをしてたなんて気付かなかった。結チャンは怖がりだって事知ってたのに‥ごめんね』

そう言って何度も何度も謝ってきた。


本当は私が石に躓いたから‥
本当は私が忠告を聞かなかったから‥

それなにの自分が悪いって言い続けてた。こういう時‥私はどうしたらいいんだろう?この疑問、今日二回目だ。一回目は‥


「あっ!そういえばさっき!!」

私は、俊チャンの行動を思い出しある場所を掴んだ。


『ここ持って歩いても‥いい‥かな?』

俊チャンは少し驚いた顔をしながら「うん」と返事をしてくれた。

『ありがとう』

そう言って肩を撫で下ろすと、俊チャンはゆっくりと歩き出した。私も同じスピードで歩いた。



本当は、手を繋いで横に並んで歩きたかった。不安だったときに、私の手を掴んでくれた瞬間「安心」する何かを感じた。その感覚を伝えたかった。でも手を繋いで帰ろうなんて言えなかった。だから勇気を振り絞って‥

俊チャンのランドセルの冠(カブセ)の部分を掴みながら帰った。


幽霊の事なんていつの間にか忘れ去っていた。今は「怖さ」よりも「熱」を感じていた。手が熱い。でもランドセルが熱をもつはずがない。って事は‥!!

後になって、自分の大胆な行動や言動が恥ずかしくなってきたみたい。