『結?』

華代が一生懸命になって私の顔の前で手を振っていた。どこか一点を見つめ瞬きを何度かして正気を取り戻した。

『ごめん、ちょっと考え事しててね』

小さく笑いながら小声で答えると、心配そうな顔で和樹君とアイコンタクトを取っていた。何となく、これから聞かれる事が分かった。2人を交互に見たあと、校庭で走り回っているクラスの男の子に手を振った。

この間がイヤだった。

とにかく何でも良いから聞いて欲しかった。そんな事を思っていると、タイミング良く鬼が代わった。今度の鬼は西山君だ。

息を整え走り出したとき、和樹君が私の前に立った。


『なぁ、最近の俊の事なんだけどよ‥ノリ悪くねぇか?授業中もいつも眠そうだしさ。桜井‥何か知ってるか?』

やっぱり。

思ったとおり俊チャンの事だった。でも‥私にも分からなかったので、下を向いて首を横に振った。

『そっか』

『ただね、何か頑張ってるんだと思うんだ。今はそっとしておかない?』

『そうだな‥』

また沈黙が始まると思ったら、和樹君は静かに校庭の真ん中に向かって走って行った。寂しそうな後ろ姿を華代と2人で見つめた。

『俊君、何してるのか話してくれてもいいのにね?』

『うん‥』

すーっと冷たい空気が流れ込んできた。夕方の生暖かい温度には、この冷たくて静かな空気は快適だったけど、ポカンと開いた心の中までもを通り抜けて、さらに穴を大きくしていきそうで怖かった。

華代はあちこちを指差しながら実況をしてくれたけど、私は機械的に首を縦に振るだけで、本当は聞いていなかった。

ただ、ぼんやりと遠くを見ていた。