2人の世界に出来るだけ入らないようにしようと思った。でも、私と話すときよりもトーンが少し高い華代の声が自然と耳に入ってきた。


『和樹、こんな所で何してるの?』

『何って休憩だよ。悠に狙われてもうヘトヘト‥』

『お疲れ様。2人とも凄い真剣な顔で走ってたもんね。でも、和樹より鳴海君の方が体力あるんだね』

『はぁ?』

和樹君は少し怒った顔で華代を見つめた。華代は笑いながら和樹君から視線を外し、校庭を指差した。その先には、しつこく小林君の後ろを追い掛け回している悠君の姿があった。和樹君がこっちに来ている間もずっと走っていたのだ。

『悠君、頑張って!!』

私は思わず声をあげてしまった。すぐに両手で口を塞ぎ、2人がいる方を向くと和樹君は大きなため息をついた。瞬時にマズイと思い、何か言ってくれるのを待った。

『俺‥‥体力作るために今年は陸上クラブに入ろっかな』

『和樹が入るなら私も♪』

華代の反応は和樹君とは対照的だった。支柱から足を離し、両手にグッと力を入れて自由になった足を前後に大きく揺らし、全身で喜びを表現していた。

私は‥この場合どうしたら良いのか悩んでいた。2人に笑顔で「頑張って」と背中を押すべきなのか、それとも「今のままで充分だよ」となだめるべきなのか。何を言えばいいのか考えたけど答えが見つからなくて、結局は黙っているだけだった。

そんな様子に華代が気付いてくれた。どうしよう、という顔でみると笑顔を向けてくれた。

『もちろん結も入るでしょ?』

『えっ?』

そんな事聞かれるんなて思いもしなかったので、声が裏返ってしまった。

『結と‥
それから俊君も誘わないと♪そうだ!!私リレーに出たいな』

興奮しているからなのか華代の声は妙に高かった。その後も、和樹君と2人で楽しそうに話をしていたけど、私は1人で遠くの山を眺めていた。俊チャンと一緒に陸上クラブに入っていた頃の事を思い出しながら。